とべとべとんび
 皆さんは鳥というと、何の鳥を思い浮かべますか?鳩にカラスに鷹にひばり・・・様々な種類の鳥がいますが、私が真っ先に思い浮かべるのはとんびだったりします。そう、あの楽しげに輪を描いちゃう鳥。大きくて割といかつい顔つきなのに、鳴き声は「ピィーロロロロ」と、まるで笛の音のように高く甘く、そしてどこかやるせない。
 私の住んでいるところは海と山に囲まれた漁師町。まだ自然豊かな土地だといえ、とんびが飛ぶさまを見ることができます。晴れた日に高ーく舞い上がって悠々と空に大きな円を描くとんびの姿を見ていると、実にゆったりとした気分になって、心身ともにリラックスできます。田舎の醍醐味ですね。
 さて、そもそもなぜとんびが私にとって印象深い鳥なのかというと、話は私が小学4年生だった頃にさかのぼります。
 当時、夕食後(ちなみに当時のうちの夕飯の時間は5時!)に祖父と港へ散歩するのが、私の日課のようになっていました。ちなみに私の父は漁師。当然ながら、祖父も引退したとはいえ漁師でした。私たちは港につくと、思い思いの場所に腰掛け、それぞれの思いにふけりながら、黙って海を眺めるのでした。
 時間的にちょうどとんび達が餌を捕りに来る頃で、群れをなして海上を旋回しています。時折顔が見えるほど私の近くをさっと横切ったりして、その眼の鋭さに思わず腰が引けてしまったものです。
 とんび達はお互い器用にひらりひらりと身をかわし合いながら、油断なく獲物を狙っています。その姿は武術の演舞のように美しく、洗練されているように見え、思わず見入ってしまうほどでした。それでいて、捕った魚を巡って熾烈な奪い合いを繰り広げたりもするのでした。
 それまで、美しくもあり醜くもあるとんびの行動に見惚れたり怒ったりと、私の思考はたびたび混乱していましたが、その日突然、「ああ、これでいいんだ」という思いが閃きました。その時の思いを言葉で言い表すのはとても難しいのですが、とにかく美も醜も善も悪も、正しい調和のもとではすべてがいいというか、そういう感覚に心がぴったり満たされるという感じでした。
 私は顔がほころぶのを禁じえませんでした。心は平穏なのに、強烈な喜びが湧き上がってきたからです。
 日が暮れ、とんびも巣へ帰る時間になりました。一羽、また一羽と山の木立へ消えてゆくとんび達を見送りながら、祖父と手をつないで家へ帰る道すがら、私は今日の事は一生忘れないだろうと予感しました。
 そうして今でも、その時の喜びに満ちた感覚をくっきり思い出せます。環境が私に与え、かつ私が意識せずして選び取ったともいえる、貴重な体験でした。
 人間にとって重要なのは、人間も含む自然との関わりの中で生きる事だと理解し、かつ心から納得できるのは、素晴らしい事といえます。しかしやはり、生きている以上疑いや迷いは何度でも頭をもたげるでしょう。だから、それに呑み込まれないよう、なるべく平常心を保ちたいものです。心に円を描くように。
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